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顕微鏡の父、レーウェンフック [科学]

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http://www.nikkei.com/life/column/article/g=96958A90889DE1EAE6E2EAE0E4E2E1E2E2E3E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;p=9694E1E2E2E3E0E2E3E0E4E0E2E7
オタク少年、「ミクロの世界」に出会う
分子生物学者 福岡伸一
2012/2/7 7:00

 生物学者になる前の私は、虫が大好きな昆虫少年だった。黒地に青と緑の輝点を散らしたカラスアゲハや、優美な曲線を描く長い触角をもつルリボシカミキリを野山に追っていた。
 やがて私は、葉の裏に産みつけられた蝶(ちょう)の卵や、翅(はね)の鱗粉(りんぷん)、甲虫の表面などを顕微鏡で観察することの鋭い驚きを知った。
 小学生になって私が買ってもらったのは、おもちゃに等しい子供用の顕微鏡だった。それでも100倍程度の倍率があり、覗(のぞ)くとまったくの別世界が広がっていた。
 焦点の当たっている場所は、微小な粒や棘(とげ)がくっきりと見える。しかしあまり精度の高くないレンズの作用で、その輪郭にはうっすらと青や黄色の不思議な色がつく。焦点からはずれた場所は、ゆがんだ光の滲みとしてぼんやりとしか見えない。しかし、むしろそのようなレンズの視覚効果が、より深淵な何かを映し出しているような気がした。

■顕微鏡の父、レーウェンフック

顕微鏡のレプリカ.jpg
 私はオタク少年だった。オタク少年の常として、何かを見るとその源流をたどらずにはいられなくなる。顕微鏡を最初に作り出したのは一体どんな人物だったのだろうか。
 こうして私は、アントニ・フォン・レーウェンフックに出会った。
 私が初めてレーウェンフックの人となりを知ったのは、図書館で見つけたポール・ド・クライフ著『微生物の狩人』という読み物からだった。たぶん中学生になったころのことだろう。
 翻訳文が読みにくいながら、肉眼で見えない病原体を追究した人々の列伝は十二分に私を興奮させた。その中の一章に、レーウェンフックが割かれていた。
 彼は顕微鏡を自分で作り、つかれたように観察を行った。その顕微鏡は、現在の顕微鏡とは似ても似つかない、金属製の靴べらに細かなネジがつけられたような形をしていた。靴べらにはガラス球の単レンズがはまっていただけだった。
 しかしその原始的な顕微鏡は、驚くなかれ300倍近い倍率を実現していた。これは今、私たち研究者が使っている光学顕微鏡に匹敵する。レーウェンフックは、レンズ磨きに秘技を持っていたのだ。
 顕微鏡の観察を通して、水たまりの中に微生物がキラキラと泳ぎ回っていることを見つけた。動植物の組織が小さな区画=細胞からできていることを知った。生きたままオタマジャクシの尾を観察し、血液の流れの中に粒があることに気づいた。あげくに精液まで見て精子を発見した。
 彼は限りないミクロの小宇宙の扉を開いたのだ。

■アマチュアとは「何かをずっと好きであり続ける人」

 レーウェンフックは17世紀、オランダの人。日本はまだ江戸時代が始まったばかりだった。彼は正規の教育を受けた科学者ではなかった。織物商の家に生まれ、織物商人として育った。
 彼は言葉の純粋な意味でアマチュアだった。アマトール=何かを愛する人。何かをずっと好きであり続けた人。そのことが昆虫少年だった私の心に響いた。
 顕微鏡を手作りしたレーウェンフック。アマチュア・サイエンティスト。レーウェンフックとの出会いが、私を17世紀の豊かな時代にいざなった。科学と芸術が自由に往還していた時。そこで私は、光の天才画家ヨハネス・フェルメールと出会うことになる。

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福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1959年東京生まれ。87年、京都大学大学院博士課程修了。米ハーバード大学医学部フェロー、京都大学助教授などを経て04年より青山学院大学教授。主な著書に『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』『フェルメール 光の王国』。近著に『動的平衡2』。「生命とは何か」をわかりやすく解説し、人気を博す。最新のデジタル印刷技術によって複製したフェルメール全作品を展示する「フェルメール・センター銀座」の監修および館長も務める。
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 いくらレンズ磨きの秘技を持っていたとしても、

 ガラス球の単レンズで倍率300倍近い顕微鏡が作れるなんて…

 レプリカの写真を見ても、信じ難い話です。

 「アマトール=何かを愛する人」がアマチュアの語源だったのですね。

 私も、ひとりのアマチュアとして、いろいろと勉強を続けていけたらいいなと思います。

(by 心如)


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