SSブログ

教育は誰のためにあるのか…!? [教育]


高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

  • 作者: 水月 昭道
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/10/16
  • メディア: 新書



―――――

大学院重点化というのは、文科省と東大法学部が知恵を出し合って練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす“既得権維持”のための秘策だったのである。
折しも、九〇年代半ばからの若年労働市場の縮小と重なるという運もあった。就職難で行き場を失った若者を、大学院に釣り上げることなどたやすいことであった。若者への逆風も、ここでは追い風として吹くこととなった。成長後退期に入った社会が、我が身を守るために斬り捨てた若者たちを、これ幸いとすくい上げ、今度はその背中に「よっこらしょ」とおぶさったのが、大学市場を支配する者たちだった。(本文より)


 はじめに

 この国で、「ワーキングプア」の存在が注目を集め始めて数年になる。私の知り合いの非常勤講師(33歳)は、今、月収15万円で生活する日々を送っている。非常勤講師をしてもらえるバイト代だけではとうてい足りないので、他にもコンビニでバイトしている。
 学生時代から住むアパートの家賃は4万円。残った11万円で、食費や携帯電話代、光熱費、大学の講義などで必要となる文献や資料代等をやりくりしている。当然、手元に残るお金はまったくない。
 毎月20日と少し働いて15万円程のお金を稼ぎ、一箇月が終わるころにはすべてなくなる。そんな生活が、ここ二年ほど続いている。
 彼女は一昨年、地方私立大学の大学院博士課程を修了して「博士号」を取得した。だが、“博士”になっても、正規雇用としての教員ポストはまったく見つからず、バイトを複数こなして食いつなぐ日々である。
 「あと何年、こんな生活をしないといけないのかなぁ」
 会うたびに繰り返される彼女の口癖だ。彼女は正規の大学教員となって、こうした生活から抜け出したいと密かに願っているが、実はその可能性はまったくない。
 現在、大学院博士課程を修了した人たちの就職率は、おおむね50%程度と考えていい。学歴構造の頂点まで到達したといってもよいであろうこれらの人たち。だが、その二人に一人は定職に就けず、“フリーター”などの非正規雇用者としての労働に従事している。
 こうしたフリーター博士や博士候補が、毎年五千名ほど追加され続けているのが、日本の高等教育における“今”なのである。その生産現場は、もちろん「大学院」だ。
 「博士」と呼ばれる人たちで、現在、正規雇用にない者(つまり、フリーター)の数は、すでに1万2000人以上。一方で、大学院生の数は戦後最大となり、昨年には26万人を突破した。
 わずか20年前には、7万人であったことを考えると、これは驚異的な成長率である。「大学院重点化計画」における院生増産が、文部科学省の主導によって“計画的に”達成された結果である。計画の先鞭をつけるためにそのお先棒を担いだのは、文科省との太いパイプを持つ東京大学法学部であった。両者による“謀”は、少子化の兆しがハッキリと見え始めた平成3(1991)年に企てられた。
 それまで、短大や大学への進学者数は、極めて順調な成長路線を歩んできた。だが、一転して、今後は急激に減少していく。その勢いは、放置しておけば、大学が潰れていくことが容易に想像できるほどのものだった。
 成長減退を経験したことがなかった高等教育の現場が、真っ青になったことは想像に難くない。大学が潰れれば、教員もあぶれ出す。だが、彼らが慌てふためいた理由は、それだけではなかった。成長路線のなかで維持され続けてきた教員ポストがいきなり減るということは、自学(東大)を修了した院生や同系学閥教員の“派遣先”がなくなることをも意味していたからだ。
 大学(東大)が、派遣先というパイを失うのと同様に、いやそれ以上に、文部科学省にとって大学市場の急激な縮小は、それまで築き上げてきた自らの権益(各種補助金や天下り先)も急速かつ大幅に縮減することを意味した。いうまでもなく、文部科学省という中央官庁は、“少子化”という日本がかつて経験したことのないメガトレンドを正面から受けねばならない組織である。18歳人口の急減という、当時高等教育市場で起ころうとしていたツナミの第一波は、そこに生きる者たちを戦慄させた。
 「既得権を守らねばならない」
 支配者たちの瞳に鈍くどす黒い光が輝いた瞬間だった。
 自らの牙城を守るためには、喰われる者の存在が欠かせない。“若者”は、こうして無惨にも、既得権者たちのエサとされることが決定された。
 一度方針が決定すれば、あとは実行あるのみだ。こうして、次から次へと大学院生は養殖され続けた。18歳人口が減少する第一歩を刻んだ平成3(1991)年から16年が経った今、短大や大学への進学者は予測したとおりに激減した。だが、大学院だけは逆となった。少子化などどこ吹く風とばかりに、院生は大量に増殖した。
 短大と大学、そして大学院をあわせた進学者数に注目すると、平成3年に比べ、今では減るどころかわずかながら増えているのである。つまり、高等教育市場は、少子化という逆風が吹くなかでも、なぜか安定した成長が続いているのである。
 自然の理に逆らうようなこんなパラドックスが続けば、どこかに歪みが生じることは火を見るより明らかだ。大量増産された博士たちは、行き場を失い瀕死の状態で世間をさまよい続けている。そして、高等教育現場における教員市場は、“超”のつく買い手市場となってその足下を見透かすように、大学教員市場では非人間的な雇用がまかり通っている。
 冒頭に紹介した私の友人が、なぜ年収200万円に満たないバイト先生生活を余儀なくされているのか、そのウラにある理不尽な構造の一端が垣間見えてきたのではないだろうか。もし、彼女が正規雇用によって専任教員となれば、年収は600万円にふくれあがる。それに伴う年間経費も、百万単位で増えるだろう。だが、非正規雇用であれば、それは必要ない。これで年間五百万以上の金が浮くわけである。
 20年で一億円以上。彼女が本来手にするはずだったお金は、一体どこに消えていったのであろうか。こうして、搾取され、誰かのために損をし続ける立場の者が大量発生している。
 損をしているのは何もこうしたバイト先生だけではない。
 教育を受ける学生やその親御さんも、また、損をしているはずだ。なにせ、大学の授業の大半は、実はこうしたバイト先生が担当しているのだ。大学に正規に所属する教員の授業と、不安定な立場でコピー代まで自己負担するアルバイトの先生による講義。教育現場において、どちらが理想的な環境であるか、その答えは明白だろう。
 市民とて大損をしている。大量の税金により育てられたはずの「博士」が、有効に活用されることなく、フリーターとして人財廃棄場にただ捨ておかれているのだから。何のために、市民の大事なお金が使われたのか。結局、得をしているのは誰なのか。
 成長減退期にでき上がったパラレル・ワールド。わが国の高等教育環境が崩壊の危機に瀕している一方で、高等教育市場を牛耳る者たちにとってのみ、理想的な安定市場が維持され続けて続けているという矛盾。
 一体何がどうなって、こんなことになったのか。本書では、そのカラクリを解き明かす。鬼に喰われ続ける若者とその両親の姿なぞ、もう見たくはない。高等教育現場の歪みに巣くうように出現してしまった「地獄」。本書がそこに降りる一本の糸になれるとしたら望外の喜びである。
―――――

 この本に書かれていることが、全てその通りだとは思いたくない。
 でも、全てウソだとも思えない…
 いや、大半が事実なのかもしれないとさえ感じる。

 ばら撒き買収政治をやるしか能がない政治家
 既得権益を守ることに汲々としている官僚・役人
 教育の理念を忘れ、金儲けを優先する大学経営者と大学教職員幹部

 政官学の癒着により、子供たちの夢と未来を喰い物にしているとしか思えないのだが…

 一体、教育は誰のためにあるのだろうか…

 そんな馬鹿げた疑問を感じざるを得ない現実があるとしたら、

 こんな悲しいことはないと言いたい。

(by 小父蔵)

・・・

DSC03844.JPG
 ▲下関市田中町に『林芙美子生誕地』という石碑があります。本人は下関市生まれと言ったが、北九州市門司区の生まれという説もあるようです。 ――『花の命は短くて苦しきことのみ多かりき』という言葉を色紙に書かれることが多かったとのことです。若者の大事な青春を、大人の邪な欲望の餌食にしてはいけない。そう言って下さるのではないかと思いますが…


nice!(38)  コメント(14)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 38

コメント 14

ラン

心理の世界も院にいっても雇用がなかなかない世界で・・・
大学の先生に止められたくらいです^^;
みんないい研究してるのに、それが生かされない社会だなんて・・・><
by ラン (2010-04-11 06:45) 

小父蔵

ランさん  コメント 有り難うございます
 新しい世界を切り開くのは若者です。若者に活躍する場を与えなければ、国や社会が衰退するのは少し考えたら分かりそうなものです。
 中高年の既得権益を制限して、もっと若者に活躍できる場を設けないと、科学技術立国なんて幻だろうと思います。
by 小父蔵 (2010-04-11 06:58) 

silverag

教育と仕事は、必ずしもリンクしなくてもいいのではないか
と、最近思っています・・・・教養として
昔・・・大学に行く女性はあまり就職しなかった(時代が違いますが)
by silverag (2010-04-11 09:23) 

小父蔵

silveragさん  コメント 有り難うございます
 中年以上の世代であれば、教養のための学問という考え方もあってよいと思います。しかし、現役大学生や大学院生の学費を負担している親御さんに、教育と仕事は必ずしもリンクしません、という説明をしたら… 大学院への進学率はもっと下がるのが妥当だと思います。
by 小父蔵 (2010-04-11 10:37) 

KOHJI

果たして教育は人がお金を稼ぐためにあるのでしょうかー。
そうではないと思います。

大学院博士課程を修了して「博士号」を取得したのに今の低収入…そんな嘆きですか。その本には余り共鳴できそうにありませんね。

by KOHJI (2010-04-11 12:00) 

小父蔵

KOHJIさん  コメント 有り難うございます
 地球温暖化問題と似たような、政官学の癒着による詐欺行為ではないかと思っています。
 あやふやな、甘い話に騙される国民(学生と親)が悪いということでしょうか?
 政府や大学が、国民を騙すことを認めるしかないとするのは残念では…
by 小父蔵 (2010-04-11 15:20) 

KOHJI

大学院博士課程を修了して「博士号」を取得したのに今の低収入…そんな少なからぬ若者の嘆きの背景には政府と大学による卑しい“謀”があったということでしたか。

まったく詐欺行為に近いですね。
引用された文章をよく読んでいませんでした。
たいへん失礼いたしました。

by KOHJI (2010-04-11 18:36) 

toyo

大変、参考になりました。
詳細はわかりませんが、なんとなく建築業界の実情とWって見えてしまいました。たとえば・・・

>大学院重点化というのは、文科省と東大法学部が知恵を出し合って練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす“既得権維持”のための秘策だったのである。

これを建築業界に置き換えると・・・

>長期優良化住宅というのは、国交省と大手ハウスメーカーが知恵を出しあって練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす既得権維持のための秘策だったのである。

結局、ここでもバカをみるのは一般消費者のようです。
失礼しました。
by toyo (2010-04-11 18:58) 

小父蔵

KOHJIさん  再コメントを頂き、有り難うございます
 問題の核心は、官僚・役人と大学が自分たちの既得権益を守るために、学生の夢を踏みにじり、親御さんの期待を裏切っていることだと思います。
 地球温暖化問題と構造が酷似していると思えてなりません。
 マスコミは、なぜこんな問題をきちんと追及しないのか? 不思議です。
by 小父蔵 (2010-04-11 19:15) 

小父蔵

toyoさん  コメント 有り難うございます
 1990年代以降、日本の少子化が本格化しました。学生の数も減りますが、いずれは住宅の需要も減ると思います。人口減少社会で、既得権益を如何に維持するのか? 頭の痛い問題です。
 結局、税金(国債)を喰い逃げすることに汲々としているのが、いま現在の日本の政官学財の癒着構造の正体だと思います。
by 小父蔵 (2010-04-11 19:27) 

iruka

若い大学生
学費をバイトが稼ぎながら 勉強してる姿を
よく見ます。
政治や社会情勢で、学校教育が左右されますね。
利益がでない学問だから 予算が削れたって
聞きました。研究って、時間もかかるし
大丈夫かなって 思いました。
by iruka (2010-04-12 00:41) 

小父蔵

irukaさん  コメント 有り難うございます
 大学院に進むくらい優秀な学生であれば、授業料を免除するような制度が拡充されたら良いなと思います。バイトに追われて、勉強する時間がとれないなんて本末転倒ですから…
 親に子ども手当をばら撒くおカネがあるのなら、頑張っている学生本人を、もっと支援する有効なシステムがあれば良いなと思います。
by 小父蔵 (2010-04-12 09:25) 

大将

本来は知識欲と言うものが人間にはあって
学問が楽しい(と言えるかどうかはわかりませんが)と思えて
学問から知識を学んだ時に結果として
良い仕事に就くことができる
本来はそんな形だと思っていましたが
今は良い仕事に就くための学問
そしてその学問が足かせになってしまうと思いますね
by 大将 (2010-04-21 18:22) 

小父蔵

大将さん  コメント 有り難うございます
 普通の仕事には、読み書きソロバンさえ出来れば十分かも知れません。本来の大学教育の目的は教養をつけることだったけれど、今では大卒の初任給が欲しいから… かも知れませんね^^;
by 小父蔵 (2010-04-21 21:17) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。