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科学の価値とは…!? [科学]

科学とオカルト (講談社学術文庫)

科学とオカルト (講談社学術文庫)

  • 作者: 池田 清彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/01/11
  • メディア: 文庫


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 市場価値を問われる科学

 第三章で述べたように、科学は高度化し、細分化し、巨大化し、きわめて金のかかるものとなってしまった。それに伴って、お金を出資する社会の方も科学の内容に口をはさむようになりつつある。この先、科学はどのように変貌するのであろうか。科学が変化すれば、当然、科学の影であり鏡でもあるオカルトもまた変化するであろう。本章では科学とオカルトの未来を占ってみたい。
 アメリカで計画されていた巨大な粒子加速器(SSC)があまりにも金がかかりすぎるという理由により頓挫した、という話はすでに書いた。科学は資金面に関しては社会の寄生虫のようなものだから、社会が資金を出さなければ息の根を止められてしまう。新しい通信機器、新タイプの自動車、新薬の開発といった市場価値を持つ研究に関しては、企業が金を注ぎ込むであろうから、とりあえずその存続は保証されるであろうが、たとえば、素粒子論とか進化論とかいったほとんど市場価値を持たない学問は、金の切れ目が研究の切れ目にならないとも限らない。
 もちろん、こういったたぐいの学問領域においても、論文はたくさん出版されているし、学問が終焉してしまうなどといった馬鹿なことは起こるはずがないと、その分野の専門家は思っているに違いない。しかし、出版した論文を売って研究費と研究者の生活費(給料)をまかなえるはずはないから(素粒子論や進化論の専門論文なぞ、普通の人には理解不能でだれも買わない)、社会がお金を出さなくなれば、趣味で研究するより仕方がない。
 科学者の頭の中には、ピア・レヴューのある学術雑誌にたくさん論文を書いた学者に、地位と報酬を与えるのは当然だとの考えが深く染みついているであろうが、それは科学者仲間の内部だけの理屈で、科学のパトロンである社会がそれで納得するとは限らない。アカウンタビリティ(説明責任)の重要性が言われるようになってきたことは、社会が科学者仲間だけに都合の理屈に、納得しなくなってきていることを示している。市場価値のない学問が、職業研究者を擁して存続するためには、今後ますます社会に対してその学問の重要さと面白さをアピールする必要が生じるだろう。
 現代社会は、大衆民主主義と資本主義を基本とする社会であり、たてまえと本音を使いわけることを余儀なくされる社会である。資本主義一本やりすなわち市場至上主義が貫徹される社会であれば、たてまえと本音は使いわける必要はない。ここでは、本音も金もうけ第一主義なら、たてまえも同じく金もうけ第一主義である。しかし、現実の現代社会は資本主義に大衆民主主義が合体した社会であり、後者は原則平等ばかりではなく、多少とも結果平等を指向せざるを得ない構造を有している。なぜならば、ここでは社会のルールを作る人々(議員)を選出するのは、原則として一人一票を有した国民であり、資本主義がどちらかというと少数の金持ちと、どちらかというと多数の金持ちでない人を不可避に作る制度である以上、金持ちから貧乏人へお金の分配が行われる社会的ルールが作られるのはほぼ必然だからである。
 具体的に言えば、金持ちから税金をたくさんとって、貧乏人からは少ししかとらないかまったくとらず、これを分配するルールが民主主義を支えるルールということになる。分配するといったって、貧乏人に直接お金を支給するわけにはいかないから、公共事業費とか補助金とかの名目で、国民の福祉に資することをもって、多少とも結果平等を追求するわけだ。国家から科学に注ぎ込まれる資金も、こういったお金の一種である。
 さて、こういうお金が国家から支出されれば、最終的にこのお金をだれが使って、だれが得するかについての競争が起こるだろう。しかし、名目上このお金は国民の福祉に使われることになっているから、たてまえとしてはもっともらしいお話を作らなければならない。こうなると、たてまえは自己利益を導くための方便にすぎなくなる。

 独創力か説明力か

 直接的な市場価値を有さない基礎科学の場合、これはほとんどウソつき競争のようになってくる可能性が強い。たとえば、発生学の研究者が、自分の研究が進めば、将来的にはガンの治療や老化の防止に役立つと言って研究資金をもらったとする。研究が終わって成果がでて、彼の研究が、ガンの治療にも老化の防止にも実のところほとんどまったく寄与しないことがわかっても、通常彼は職を追われることもなければ、咎められることさえないであろう。それどころか、この資金によって論文を何篇か書けば、科学者仲間内での彼の地位は確実に上昇するであろう。しかし、こういったやり方で社会をいつまでもごまかし続けられるかどうかはわからない。
 何の役にも立たない研究でもお金を出してくれる余裕が社会にあれば、結果的に論文を出版すれば文句を言われることはないであろうが、研究者が求めてくる資金の総額が、支出可能な資金の額よりもはるかに大きくなれば、論文が量産できるだけで社会のニーズに合わない学問領域はリストラされてしまうかもわからない。資金をもらうには、さらに巧妙なウソをつくか、さもなくば社会のニーズに合った分野に研究領域をシフトさせる必要が生じてくるだろう。
 研究者は研究をしているだけではすまなくなり、資金を得るためにはむしろアカウンタビリティの能力の方が重要になってくるに違いない。独創的な研究をする能力とアカウンタビリティの能力はパラレルであるとは限らず、むしろ背反することが普通であろうから、独創的な才能の持ち主は、徐々に科学技術の分野からいなくなってしまうかも知れない。今日でさえ、巨大科学の分野では、多くの若い研究者は研究組織の歯車の一つとならざるを得ず、自分の独創性を発揮する機会は少ないのであるから、その上社会に対してあれこれと言い訳をしなければならないとするとなおさらであろう。
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>科学は資金面に関しては社会の寄生虫のようなものだから、
>社会が資金を出さなければ息の根を止められてしまう。

 だから、科学者は、政治家や役人と癒着し、原発ムラのように、腐敗してしまう可能性が高いのです。科学者は研究資金やポストを欲しがり、政治家や役人は自分たちのやっている税金の無駄遣いに「科学のお墨付き」(言い訳)を欲しがるからです。

>科学者の頭の中には、ピア・レヴューのある学術雑誌にたくさん論文を書いた学者に、
>地位と報酬を与えるのは当然だとの考えが深く染みついているであろうが…

 ピア・レビュー(査読)のある学術雑誌なんて、同じ指向の科学者の集まった同人雑誌のようなものです。仲間内で盛り上がり、自分たちの主義や傾向と異なる者を排除し、既得権を守るのに都合がいいだけの話です。査読付きの論文を多く書いたからといって、その科学者が優秀だなんて思ったら大間違いだと思います。
 本当に優秀な科学者は、他人がなかなか理解できないほど独創的な発想を持っている可能性があります。そういう独創的な発想は、査読というシステムによってはじかれてしまう可能性が高いのです。査読付きの論文として学術誌に掲載されていないから、研究の価値(独創性)がないなんていうのは馬鹿げていると、私は思います。

>直接的な市場価値を有さない基礎科学の場合、
>これはほとんどウソつき競争のようになってくる可能性が強い。

 100年先の気候がどう変動するのかなんて話は、まさにこの範疇ではないかと思います。なんの確証もないのに、さも、このままでは人類が滅びるみたいな大袈裟な話が横行しています。ウソつき競争をいくらしても、100年先に結果が出るときに、ウソつき競争の参加者はどうせみんな死んでいます。これほど無責任な話は過去に例がありません。地球温暖化論は史上最悪の科学スキャンダルなのです。

>研究者は研究をしているだけではすまなくなり、
>資金を得るためにはむしろアカウンタビリティの能力の方が重要になってくるに違いない。
>独創的な研究をする能力とアカウンタビリティの能力はパラレルであるとは限らず、
>むしろ背反することが普通であろうから、
>独創的な才能の持ち主は、徐々に科学技術の分野からいなくなってしまうかも知れない。

 「悪貨は良貨を駆逐する」と言いますが、科学の世界でも、ウソつき競争が激化すれば、真に独創的な研究をする科学者は駆逐され、国民を口先で誤魔化すのが上手い、ウソつきばかりが蔓延るのだろうと思います。

 サイエンス(science)とは、「知ること」が原義なのです。

 ウソつき競争の勝者でないと、科学者として生き残ることが困難なのが事実だとしたら…

 科学にいったい何の価値があるのかと問いたい。

(by 心如)

・・・

【おまけ】

◎行列
 ひとりのヴィリニュス市民が言った。
「まったく、何を買うにもこの行列だ。こんな生活はもう嫌だ。俺はモスクワに行って抗議してくるぞ」
 数日後、男はヴィリニュスに戻ってきた。
「どうだったモスクワは?」
 男は肩を落として言った。
「抗議を言う人で行列だった」

・・・ 


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コメント 2

大将

科学であっても化学であっても
はたまた数学であろうと、学問と言うものが
実は人間を中心に考えられているもの
ここ数年でやっと!と言う感じで地球にやさしいだのエコだの
そんな事を言われるようになりましたね
人間を中心に考えると地球に必要でも
害がある!と言う答えになったりする
そんなのが本当に学問なのかどうなのか疑問です
by 大将 (2011-12-13 16:01) 

心如

大将さん、コメントを頂き有り難うございます
 地球に優しくなんてことをいって、国民から税金を搾り取る手助けを科学者がしているのは嘆かわしいと思いますが…
by 心如 (2011-12-13 18:53) 

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