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宇宙論とは [科学]

世界の論争・ビッグバンはあったか―決定的な証拠は見当たらない (ブルーバックス)

世界の論争・ビッグバンはあったか―決定的な証拠は見当たらない (ブルーバックス)

  • 作者: 近藤 陽次
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/08
  • メディア: 新書


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〈準定常宇宙論〉

 準定常宇宙論によれば、宇宙には初めもなければ終わりもない。ハッブルの観測による銀河系の赤方偏移に示されるように、宇宙空間は、その性質として、常に自然膨張している。その膨張のために生まれる空間は、新しく生まれてくる物資で満たされるから、宇宙はいつ見てもほぼ同じように見える。この新しい物質、つまり正の物質(正のエネルギーも含む)が生まれる際に、それと相対する負の物質(負のエネルギーも含む)が生まれる。これがブラックホールである。こうして、宇宙内の物質とエネルギーの均衡がいつもとれていることになる。
 無から物質とエネルギーが生まれる際の、その他の物理条件はインフレーション・ビッグバン論と酷似しているので、これはミニ・インフレーションとも呼ばれる。
 前にも少し触れたが、この無から物質やエネルギーが生まれるという構想は、フレッド・ホイルが半世紀以上も前に定常宇宙論で提案したもので、その当時のビッグバン支持者たちは、それはあり得ない物理現象だとして非難したりあざけり笑ったりした。だが、現在のインフレーション・ビッグバン論では、ホイルが最初に提案したように一つ一つの水素原子が真空から生まれるどころではなく、宇宙の全部が一時に無から生まれるとしている。まさに運命の皮肉といえよう。
 準定常宇宙論では、宇宙背景放射は、銀河系間の空間に無数に存在している微細な鉄もしくは炭素の塵が、その空間の低温度(2.73K=マイナス270.43℃)で発光しているものによるものとする。
 この銀河系空間の温度については、1930年代にレゲナーが2.8Kと推定していて、これはビッグバンの支持者たちの計算した背景放射温度よりも、実際に観測された背景放射温度2.73Kに、今振り返ってみても驚くほど近い。
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タグ:宇宙 人類

ビッグバン仮説とは [科学]

世界の論争・ビッグバンはあったか―決定的な証拠は見当たらない (ブルーバックス)

世界の論争・ビッグバンはあったか―決定的な証拠は見当たらない (ブルーバックス)

  • 作者: 近藤 陽次
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/08
  • メディア: 新書


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〈インフレーション・ビッグバン論〉

 インフレーション・ビッグバン論によれば、宇宙は、百数十億年前に、何も存在しない真空の中での量子的な揺らぎから非常に高密度の物質が生まれ、それが超光速で膨張(インフレーション)して生まれたものである。
 しかし、現在の量子物理学の知識では、その一番最初の状態は表現できないので、インフレーション・ビッグバン論における宇宙は、プランク係数から導き出されるいわゆるプランク長さに至った段階から描写される。また、プランク長さに至るまでの時間はプランク時間と呼ばれる。
 プランク長さは、10のマイナス33乗センチメートルほどの長さで、ゼロを並べて書けば、0.000000000000000000000000000000001センチメートルとなる(ちなみにプランク時間は、約10のマイナス43乗秒)。この大きさから、最初のインフレーションが終わる1センチメートルの大きさに膨張するのに約10のマイナス33乗秒かかるから、この膨張の速度は、光の速度の10の22乗倍以上ということになる。この段階で、超光速のインフレーション的膨張が終わる。
 だが、論文によっては、インフレーションは10のマイナス35乗秒で終わるとするものもあるし、宇宙が10センチメートルの大きさになるまで続くとするものもある。
 約1秒後には、宇宙はニュートリノにとって透明になる。物質の密度が極めて高いとニュートリノは通り抜けられないのだが、このころになると、ニュートリノが通り抜けられるくらいにまで宇宙の物質の密度が下がるのである。
 その後、生まれたての宇宙は膨張を続けるが、一番最初から計って数秒から三分くらいのあいだに核融合がおこなわれ、初めは水素原子だけだった宇宙にヘリウムが、重量で二割余の割合でつくられる。
 約30万年後には、宇宙背景放射にとって透明になるので、現在観測されている背景放射は、そのときの残映ということになる。だが、前述のニュートリノの背景放射のほうは、現在の観測装置では探知できるはずがなく、まったく観測されていない。
 その後も膨張が続き、約10億年くらい経ったところで、恒星やその集団である銀河系が生まれてくる。
 ここから先の宇宙がどうなるかは、その膨張の速度、つまりハッブル係数の観測数値と宇宙の全質量とによって決まることになるが、インフレーション・ビッグバン論が正しいためには、両者のあいだに一定の関係がなければならない。すると、現在のハッブル係数から考えて、宇宙の全質量の99パーセント以上が暗黒物質である必要がある。
 暗黒物質というのは、宇宙に満ちていると考えられている、現在の我々の観測にはかからない物質、すなわち見えない物質のことである。
 ただし、もし、最近言われ出したように、“暗黒エネルギー”た宇宙の膨張を加速しているものとすると、暗黒物質の量は全宇宙の30パーセントくらいですむかもしれない。
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何が正しいかは、多数決では決まらない [科学]

世界の論争・ビッグバンはあったか―決定的な証拠は見当たらない (ブルーバックス)

世界の論争・ビッグバンはあったか―決定的な証拠は見当たらない (ブルーバックス)

  • 作者: 近藤 陽次
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/08
  • メディア: 新書

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はじめに

 読者は、ビッグバン理論が、すでに確立された正しい学説だと、信じておられるだろうか? もし、そうだとしたら、本書の題名を、少々奇異に思われるかもしれない。現在、ビッグバン理論は、科学の専門家たちにも、また一般読者向けの科学記事を書く記者の人たちにも、主流派もしくは正統派と見なされている。だから、読者が、ビッグバン理論が正しいと信じている数多くの人たちの一人だったとしても、驚くにはあたらない。
 しかし、じつは、ビッグバン理論が本当に正しいのかどうか、結論が出ているわけではないのだ。みんながそう思っているからといって、必ずしもそれが正しいというわけではないという例は、この世には無数にある。
 どの宇宙論が正しいかという結論は先に預けて、先入観をもたずに、この本をまず読んで、その内容を熟考していただきたい。本書の目的は、ビッグバンを否定することでも支持することでもない。したがって、読後に、やはりビッグバン理論が正しいと思われる方があれば、それはそれで無論結構だ。結論がどうなるかはともかく、もう一度宇宙論そのものを、じっくりと考え直してみようという人が出れば、本書は、その肝心な目的の一部を達したものと考えたい。
  ◆    ◆    ◆
 本書の目的を正しく理解していただくために、まず最初に、歴史上の宇宙観の変遷と、その変遷の理由を振り返ってみる。
 なぜ、現在もう時代遅れとされている古い宇宙観を振り返ってみる必要があるのか、と疑問をもたれる人もあるかもしれない。宇宙観または世界観の変遷を再検討する大切な理由は、過去のどの宇宙論も、その時代の天文学者たちや一般の人たちのもっていた科学知識の基盤や、その人たちに取得可能だった観測資料に照らしてみると、それはそれで十分納得のいくものが多かった、ということを知っていただきたいからだ。
 過去の宇宙論は、けっして、非科学的な迷信のようなものばかりではなかった、ということを、まず認識してもらいたいと思う。
 しかも、どの時代でも、少なくともその知識階級のほとんどは、当時の主流派の宇宙観を絶対正しいものと信じていた(一般庶民の場合、いつも生活に追われ、また読書のできる人もまれで、宇宙論などに関心をもつ余裕のある人は、比較的少なかったようだ)。
 まだ宇宙という観念が未成熟だった、古代人の自然世界観を、宇宙論と呼ぶのは少々おこがましいかもしれない。しかし、その時代時代の世界観というものは、そこに生きている人たちにどのような科学知識の探究法が可能か、ということに大きく左右されるものだ。その点をよく認識しておかないと、現在の宇宙論の種々の問題と、それにからんだ疑問点、さらには現代の科学研究および科学知識の限界というものが、理解し難いと思う。
 ひらったくいえば、現在の宇宙論のどこまでが明確な知識で、どこから先が憶測なのか、歴史上の種々の先例に照らして、身近に経験していただきたいのだ。
 科学の進歩には、伝統的な理論(主流派)と、新理論もしくは異端論(少数派)の対決が、付き物と思われがちだが、必ずしもそうではない。伝統的な理論(主流派)の中の一部から発展的に新しい理論が生まれてくるようなこともありうる。また、新理論もしくは異端論(少数派)なしには、科学の進歩が考えられことも事実だが、とはいえ、非伝統的な理論のすべてが正しいわけではないし、どう見ても、正当な科学研究とはまったく関係のないような、奇妙奇天烈な異端論もある。
 だが、民主主義において、言論の自由が、暴政を防ぐための防波堤となるように、かなり奇抜に思える新理論でも、主流派の推す伝統的な理論にそぐわない、という理由のみで、それを無視したり、排斥するのは、科学の進歩を妨げる行為である。だが、どのようにして、正当な新理論と、非科学的な奇説とを区別するかの判断は、必ずしも容易ではない。
  ◆    ◆    ◆
 本論に入る前に、科学理論と仮説の相違についてひと言述べておきたい。証明が十分でない学問上の意見は仮説と呼ばれる。それが、厳密なテストと検証を通して初めて、理論と呼べるものになる。
 たとえば、ニュートンの力学は、すでに何世紀ものあいだ、厳密にテストされてきており、十分検証済みだから、確立された理論といえる。ニュートンの力学は、物理条件が極限状態にある場合を除いて、ふつうの条件のもとでは常に有効である。そして、物体の速度が光のそれに近づく極限状態では、アインシュタインの「特殊」相対性理論が適用されることになる。
 この特殊相対性理論は、20世紀初頭から、すでに一世紀近くにわたり検証されてきているから、確立された理論と認めてよい。
 アインシュタインの「一般」相対性理論のほうは、それを適用することが必要な物理上の問題が、とくに天文学や宇宙論によく出てくる。この一般相対性理論は、そういう問題解決のテストを経ながら、目下検証が最終段階に近づきつつあるところだといえようか。
 ところで、宇宙論の仮説は、それをテストするのがかなり困難なことが多く、場合によっては、その検証が、すくなくともある段階では、まず不可能なことも間々ある。
 たとえば、宇宙が百数十億年前に創成されたものとして、そのときの物理条件を再現させようとしても、それは、現在の科学技術水準では、まず不可能に近い。そういう場合には、その仮説がどういう天文・物理現象を予言するかを調べ、それが実際の観測や実験と一致するかどうかを調べるのが、ふつう用いられる手段になっている。
 だが、観測技術の進歩とともに、その仮説そのものも進化して、その予言するところが変わってくることがよくあるので、仮説を客観的に検証するのは、言うのは易いが実行するのはかなり難しい。
 本書では客観性を保つために、ビッグバン説(現在の主流はとくに「インフレーション・ビッグバン説」と呼ばれる)も、定常宇宙説(現在は準定常〈Quasi-Steady State>宇宙説が登場している)も、宇宙論のすべてを仮説として取り扱うことにする。ただ、修辞上の便法として、ビッグバン説や定常宇宙説を、一貫して仮説と呼ばず、理論(あるいは論)という表現を使うことが間々あるかと思うが、この点、読者諸氏に事前の御了承を請うておきたい。
 過去一世紀ほどのあいだに、我々の宇宙についての知識は、飛躍的に進歩したが、まだよくわからないことも山ほどある。そのわからないところを含んだままで、理論を立てることになると、憶測がかなり入ってくる。本書では、宇宙論の中の確立された知識と、その中の憶測と思われるものとの区別を、はっきりさせていきたい。
 憶測がその主要な位置を占めているとしたら、その理論は、化学的には仮説の領域に属するものと見なすべきだ。もちろん、その仮説を理論として確立させようとする努力に、科学上の進歩が見られるのだから、ある段階では、仮説であることはけっして悪いことではなく、それはむしろ発展上での必要な過程である。
 避けるべきことは、仮説を確立された理論と混同することだ。

 2000年8月   近藤陽次
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2000年に一度の大津波とは [科学]

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http://diamond.jp/articles/-/15557
今度は“2000年に1度”の大津波が西日本を襲う!?
30~40年以内に必ず来る「3つの巨大地震」の正体
――東海大学地震予知研究センター・長尾年恭教授

 2011年は3月11日に発生した東日本大震災によって、日本中が大地震&巨大津波の恐怖に震えた年だった。2012年以降も引き続き大地震の発生が懸念されるが、そんななか東海大学海洋研究所・地震予知研究センター長の長尾年恭教授は、「これから30~40年の間に、“3つの大地震”が日本を襲う」と警戒を呼びかける。では、その“3つの大地震”は一体どこで起き、どのような被害を及ぼすのだろうか。2012年もまだまだ油断できない大地震の正体について長尾教授に詳しく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

 3.11後、日本列島は“地震多発時代”へ突入
 西日本では「2000年に1度の巨大地震」発生か

――東日本一帯に甚大な被害をもたらした東日本大震災。日本観測史上、最大の規模となったこの地震の発生によって、日本列島にはどのような影響が起きたか。

 現在、2つの影響が及んでいると考えられる。

 まず、3.11の地震によって東日本が東方へと約5メートル動き、地殻変動が起きている点だ。地球の表面は繋がっているにもかかわらず、一部分だけが移動すれば、他の部分に無理な力がかかってしまう。したがって、3.11のときに破壊されなかった領域にはより大きな力が加わってしまい、岩盤が不安定な状況にあるといえる。

 もう1つは、日本列島全体が大きな地震の活動期に入った点だ。地震活動は50~100年位で周期的に静穏期と活動期がくりかえすが、その周期に突入した。また、最近の研究では今回の東北沖地震は1000年に1回、あるいは500年に1回ではないかと言われているように、長期的な周期も存在するようだ。そんななかで明らかになったのが、西日本で1800~2000年に1度発生するという巨大地震の発生だ。

 そもそも西日本では、8世紀にまとめられた古事記や日本書紀などの古文書の存在によって、今から1500年位前までに起きた地震の存在はすでに明らかになっていた。ところが3.11後に詳細な調査が行われ、静岡平野や高知平野、浜名湖などの様々な場所で、1800~2000年前に超巨大地震が起きていたことが新たに発覚。実際、西日本では過去7000~8000年の間で4回の巨大地震が発生したと考えられる。

 その規模は、これまで我々が史上最大と言ってきた1707年の宝永地震を上回っていると見られる。なんと、宝永地震では高知平野における津波の堆積物は15センチメートルだったにもかかわらず、その下から60センチメートルの堆積物が発掘されたからだ。要するに、1800~2000年前に中部地方から関西、四国、九州の沖合すべてを飲み込む3.11以上に大きな地震が起きており、1000年に1回の東日本の地震が発生した今、西日本を2000年に1度の巨大地震が襲う可能性は非常に大きい。

――もともと西日本では、東海・東南海・南海地震の発生が警戒されていたが、2000年に1度というこの巨大地震との関係性は?

 東海・東南海・南海地震と発生場所は同じだが、今回懸念されている西日本の巨大地震はその倍以上の規模になるうえ、九州や沖縄まで同時に発生する。そして、3.11と同様、太平洋の沖合でプレート境界が一度に壊れることで、太平洋側にはどこでも15~20メートルの津波が押し寄せることになるだろう。

 発生時期については、これから30~40年、長くても50年以内と見ている。実際、9世紀にはおよそ50年の間に、869年に東北地方で起きた貞観地震をはじめ、西日本や現在の首都圏直下地震、さらに伊豆諸島の神津島は大噴火し、富士山の貞観大噴火も起きた。これからの数十年間も1100年前と同様な事態が発生する可能性が極めて高く、日本列島が大動乱の時代に突入することは間違いない。

(以下、省略)
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脳がないのに知能があるとは [科学]

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http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2848285/8234962
脳を持たない知能のカギ「粘菌」、活躍する日本の研究者たち
2012年01月03日 16:05 発信地:函館/北海道

粘菌.JPG
北海道函館市にある研究室で粘菌の入った培養皿を持つ、はこだて未来大学(Future University Hakodate)の中垣俊之(Toshiyuki Nakagaki)教授(2011年3月10日撮影)。(c)AFP/SHINGO ITO

【1月3日 AFP】脳を持たない原生生物なのに迷路の中を進むことができる「粘菌」が、理想の交通ネットワークを設計考案する上で役立つかもしれない。落ち葉に生息する単細胞生物にしては「上出来」だ。

 アメーバー様で黄色い粘菌は、地球上に数千年前から存在していたが、粘菌たちの生活はハイテクとはほど遠いものだった。だが、科学者たちは、複雑な問題を解決することのできるバイオコンピューターを設計する上で、この粘菌の生態が鍵になるかもしれないと語っている。

■粘菌研究でイグ・ノーベル賞

 はこだて未来大学(Future University Hakodate)の中垣俊之(Toshiyuki Nakagaki)教授は、シャーレ上で培養している粘菌をえさ場への迷路に入れると、最短経路を探し当て、それに沿って自分の細胞を組織化すると述べる。

 中垣教授によると、粘菌には自分にとって害となる光などのストレス要因を避けながら、えさ場に到達するという、経路の「最適化」を行える一種の情報処理能力があるようだ。

 函館(Hakodate)にある研究室で、中垣氏は「人類だけが情報処理能力のある生き物だとは限らない」と語る。「単純な生物でさえ、ある程度の難しいパズルを解くことができる。もし生命や知能についての根源は何かということを考えていこうとすれば、単純な生物に使うほうがわかりやすい」

 粘菌よりも単純なものはない。粘菌は落ち葉や枯れ木に住み着き、バクテリアを食べる生物だ。中でも真正粘菌のモジホコリ(Physarum polycephalum)は、顕微鏡なしで肉眼で見ることのできるサイズに成長する。見た目はマヨネーズのようだ。

 中垣氏のモジホコリを使った研究は、2008年と10年に「イグ・ノーベル賞(Ig Nobel Prizes)」を受賞した。ノーベル賞(Nobel Prize)のパロディー版である同賞は「一見、人々を笑わせ、それから考えさせるような」科学研究に授与される賞だ。

■最適ルートを発見する粘菌

 知能の鍵を探すのに、粘菌を研究するのは奇妙に思えるかもしれない。だが、粘菌こそがスタート地点にふさわしいと研究者たちは語る。

 九州大学(Kyushu University)の手老篤史(Atsushi Tero)准教授は粘菌の研究について、人間の知性のメカニズムを探求する上でおかしな研究ではなく、かなり正統なアプローチだと述べる。手老氏によると、粘菌は人類の最先端技術よりもはるかに効果的なネットワークを作りだすことができるのだ。

「複数の通過点を経由する最適ルート分析は、コンピュータの得意な分野ではありません。なぜならこの種の計算は膨大になってしまうからです」と手老氏は語る。「しかし粘菌は、全てのオプションを計算することなく、場当たり的に広がりながら最適ルートを徐々に見つけていきます。粘菌は何億年も生き続けた結果、環境の変化に対して柔軟に適応できるようになり、不測の要因にも耐えうるネットワークを構築できるようになったのではないでしょうか」

 粘菌は温度や湿度の変化といったストレスにさらされると、活動を停止することが研究で分かっている。さらにストレスを「記憶」し、同じストレスを体験すると予測したときに、あらかじめ自己防衛的に活動を停止することも判明している。

 手老氏の研究チームは、東京を中心とした関東圏の鉄道網によく似たパターンを粘菌に形成させるのに成功した。鉄道網は人びとが知恵を絞って、作り出したものだ。手老氏は、将来の交通網や、停電時の迂回も組み込んだ送電網計画などにこうした粘菌ネットワークが使われることを期待しているという。

■粘菌を使い、人間の脳に近いコンピューターを

 理化学研究所(Riken)の研究者、青野真士(Masashi Aono)氏は、人間の脳のメカニズムを研究し、やがて人間の脳を粘菌で複製することが研究の目標だと語る。

「低次な細胞の情報処理能力を研究することが、人間の脳のメカニズムの解明につながると思っています。研究者として、(そのような手法で解明する)モチベーションとか野望はあります」と青野氏は述べる。

 いわゆる「粘菌ニューロコンピューティング」の応用例には、粘菌のネットワーク形成に用いられる手法に基づいて設計された新たなアルゴリズムやソフトウエアなどの創造なども含まれる。

 青野氏は「究極的には、粘菌そのものを使い、人間の脳がもつ情報処理システムに近いコンピュータを作ってみたい」と述べ、「粘菌は中枢神経など持っていないが、自らの流動性を利用して知性があるように動いている。それってすごい。私にとって粘菌は小宇宙です」と語った。
(c)AFP/Shingo Ito
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